上等な服には、上等な着こなしというものがあって、由緒正しく目立たないのが望ましい。
周囲はやたら似非(えせ)個性を追いかけているから、結果と して品良く地味目立ちする。
さらに男子たるものの着こなしは、少し野暮にしてみる。
スキのない着こなしほど下等に映ってしまう。高価な貴金属のタイタックなどいただけない。
ヨーロッパを旅して、ネクタイを何かで留めている男に出会ったことがない。
揺れるネクタイで少しだけスキを見せる。服や車を威 嚇の道具としている人たちを想像するといい。
まるで映画の詐欺師かギャングのようだ。
婦人服の場合も同様で、あまりにもセクシーすぎる着こなしは、いら高価でも知性を感じ得ない。
上等・正調の対極にある場違いを見掛ける事は多い。どんなによく出来た服でも、流行りすぎると
下劣に見えてくる。流行りすぎ た服などユニフォーム的効果しか生み出さない。
最も目立たなければいけない 筈の着手の顔が透明になってしまう。
個性などというものが数百万の出費で買 えるのなら安いものだがそうはいかない。
ロンドンでのエピソード。由緒正しきジェントルマンの店は、傘とステッキ、帽子、葉巻、テーラーなど
数々ある。ここはひとつと思い切って足を踏み入れた。「カナイヘルプユー・サー」店のスタッフに声を
掛けられる。慇懃というのはこういうのを言うのだろう。それ以上もそれ以下もないという態度である。
小説や映画に出てくる老練な執事の如くといった感じだ。慇懃の下に無礼がつように思われるのは、
こちらの気持ちが卑屈なせいか。きわめて上等な接客に電気が走る。
というか下等な田舎モンが緊張して気を失うも当然。
500£ もするこうもり傘を買ってしまった。どこかに置き忘れて、今はもう無い。
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