予約していたイタリアンレストランに着く頃には、二人を夕闇が包んでいた。
それは街の中心から少しはずれたところにあった。
飲食店が立ち並ぶ喧騒が途切れて住宅街に変わるあたりだ。
どちらかというとイタリアの北の方の正調なリストランテをイメージしたことがはっきりと窺える。
実に品の良い料理を出してくれる。店の設えは簡素でもなく豪華すぎもせず、
居心地がとてもよかった。
「オーナー、お久しぶり。ちょっと遅くなりました。」
「二人とも相変わらずお洒落だね。大人のカジュアルって感じだけど。
今日の服、打ち合わせでもしたのかな。」
「いや、偶然ですよ。」
の自分の返事を掻き消すように、
「ええ、ありがとうございます。」
と、彼女の声が明るく響いた。
知人に紹介されてこの店に通い始めて4年になるだろうか。
ほとんどは厨房仕事が多いオーナーシェフだが、ホールに出るときはいいスーツを着ている。
尋ねてみると、自分と同じショップの常連だったことから意気投合した。
今日はホールに立つ日のようだ。良くできた黒いスーツだった。
黒にありがちな他に対して攻撃的な感じは微塵もなかった。
「今もあそこでスーツ作ってんの。」
「当然でしょ。今はスーツだけでなく全部ですよ。先週行った時、
オーナーの新しいジャケット見せてもらいましたよ。」
イタリアで修行した経験を持つオーナーと交わす会話はとても楽しかった。
点としてしかイメージできなかったイタリアの各都市が話を重ねるうちに二次元的に
つながっていく。
「この暑い夏が終われば、秋のイタリアは食材の宝庫。
フンギポルチーニが手に入るからリゾットでも作るかな。」
「本当ですか。それは楽しみですね。必ず連絡くださいよ。」
<完>
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