2016年6月22日水曜日

VOL・130 色彩と季節  2011・10

お盆も明けたとはいえ、残暑厳しい折にご来店いただいたお客様。

秋のスーツとジャケットの生地をご提案するのだが、どれをお見せしても地味だとおっしゃる。

横でご覧いただいていた奥様がとてもナイスな一言。


 「あなたの眼はまだ夏の眼なのよ。

 冬の眼に切り換えないとせっかくの生地の

 良さがわからないんじゃないの」


夏の強烈な日差しの下では、純白のシャツをはじめ、シンプルで直射日光と相性の

良いものの方が着映えする。さらに現代ファッション、とりわけ夏の潮流が、

スポーティヴルックだからであろうか、大胆な純色(原色)の配色が映える。

一昔前な低俗な色合わせの見本のように挙げられていて、TVのテストパターンみたいと

皮肉られたりしたものだ。

一方、ナチュラル系ファッションが好きな人なら、光りに晒された感のある風合いの

生成りなどを好む。とりわけレディースでは相変わらず伸びる・光る系の素材が多用

されているようであるが。

陽の光りから鋭さが消え、柔らかさを感じる頃、人の眼も冬の眼へと衣替えを始める。

色だけでなくサーフェスインタレスト、ウォームな素材感が恋しくなり、暑苦しくさえ感じていた

ダークな色が格好良く見えてくる。色合わせも、思いもよらなかった濃色同士のコーディネイトに

心惹かれる。夏にあれほど格好いいと思っていた自慢の一着が、秋風が吹き始める頃には

野暮に感じてくる。冬から春を迎えるときも同じで、高級素材のタッチすら重たく感じる。

しかし、そこには衣服を身にまとう楽しみがある。

色合わせや色彩の調和は、各誌でハウツーが繰り返される。

同じものを着るわけではないから、説明の手段にすぎない。

その生地や文章の中でのみ有効な記述概念である。自ら考え楽しみたい。

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