2016年6月22日水曜日

VOL・131 職人ことば  2011・11

今どきはスーツ屋と言っても店頭の小売りスタッフをイメージすることが多くなった。

高級なスーツは職人が作るオーダーメイドであり、安価な既製服を「吊るし」と称して区別していた

のは遠い昔の話だ。職人、技術者がスーツを作るときに用いる隠語というか職人用語には

キレの良さをも感じるのだが、どこかしら物騒で品が無いと言われても仕方のない響きがある。

余計なシワを取り、立体化する「クセ取り」や、アイロンワークで生地を変形させる「殺し」などが

代表である。

次に少々際どくなるが、年を重ねた殿方は聞いたことがあるかもしれない。

金ぐせ(かねぐせではない)と言う言葉があるが、あまり使われなくなったようだ。

既製のズボンだけでなく、オーダーでもあまり用いなくなった。

今のズボンの前身は左右対称に作られていて、金ぐせがつけられていないのだ。

上衣と同じく男合わせ(男前)の場合、フロントファスナー部分は左上前、つまり左側が

前(上)になる。利き腕に関わらず右手で出し入れがしやすい左側にモノを収納することが

多くなる。するとズボンの左足側は右側に比べて納めるべき体積が増す。

相対的には右側が若干ユルく感じる結果となる。そこでファスナーの下あたりを1cm程度

カットして右側を小さくする。これが金ぐせである。それをやらないと極左派?の人のズボンは、

右側の余りが後中心(ヒップ)の右にタルミとなって現れる。右のピスポケット(尻ポケット)に

ハンカチを入れる人が多い気がする。無意識な習慣なのだろうが、理にかなっていることになる。

右派、左派、中間派と色々あるが、昔の職人はそれとなく見極めていたのだろう。

フィット感の強い下着の出現も手伝って、中間派が多くなり、金ぐせも不要になってきたのである。

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