2016年6月22日水曜日

VOL・135 スーツフィクション  2012・3


「イタリアでのパーティでスーツ誉められたのとタキシード作るのと何か関係でもあるのかい」


「いや、それが先輩、夜のパーティではほとんどの男性は、ちゃんとした

フォーマル着てましたから、こっちは少し肩身の狭い思いをしました。男子日本代表として負けられませんからね。
作っているのは先輩でしょ。二人三脚ですから責任重大ですよ」

「わかってるよ。そんなこと」

「それから、彼らにもう一つ言われたんだけど。

アジア人は頑張って着こなすほど、取って付けたようで、何て言ってたかな、
幼稚で若作りに見えてしまう。しかし、シニョール田原にはそれが感じられない。
僕の視点からも同じことを思っていました。
イタリア男は、スーツでもカジュアルでも子どもっぽくならずに大人の男性を表現する。少年の心を持つことと、着こなしが若作りに見えてしまうのは別のこと。スキルの差ですよね」



ナポリ仕立てのスーツやジャケットが田原の好みだ。そして良く似合う。


初めて私のところに来たときは、ナポリ製の良くできたスーツを着ていた。


自分のナポリ製のスーツの自慢ばかりをしに来る変わった男だと思っていた。


半年が過ぎた頃だったろうか。突然、私にスーツをオーダーすると言い出した。


私がナポリ仕立ての服を標榜して物作りを続けていることは彼も理解していた。


間に合わせに既製のスーツを一着買ってもらったことがある。


海外に出張した際、そのスーツが一番誉められたと口惜しそうに話し、


これからは全部ここで注文するからと頭を下げた。そうして十年が過ぎた。


時の経過と共に、彼のスーツ、ジャケット、パンツ、シャツのファイルも二冊目になっていた。



「とにかく、タキシード作っとけばいいんだね」




<続く>


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