今さら釦と思われるかもしれないが、それひとつでスーツのニュアンスは一変してしまう。
他の構造物の芯地や肩台(パッド)などはスーツの性能を決める大事なモノであるが、目
に見えないから余程マニアでない限り、テーラー任せといったところだろう。本題に戻って
釦のはなし。良質なクラシックスーツには、主に天然素材の釦が用いられる。
最も多く用いられるのがナット釦。椰子の実の種の胚乳が象牙質で、釦の材料になる。
南米エクアドル産のタグワ椰子を用い、正確な手作業で制作される。着色して使われるの
で、一見プラスティックに見えるが、よく見ると微かに木目が感じられる。これが植物から
採取された物かと驚いてしまう。
次にホーン釦。ナット釦が植物から作られるのに対して、こちらは水牛の角を加工した物。
インドやタイなどが原産国である。ナット同様に削りだして整形するが、色は天然のままを
仕分けして用いるので、アメ色から黒褐色まで焼く5色ぐらいに色分けされる。ナットと異な
り、均一色でなく少しブチが入った感じが好きな人も多いはず。
その他にも天然素材の釦として、冬のツイードに合う革のバスケット釦などがある。
開きを留めるだけの機能を果たすだけなら何でも良いのだろうが、クラシックなスーツの控
えめな上品さを演出する役目としては、ナット釦かホーン釦に止めを刺す。量販店のスーツ
の釦は1個10円もしない安い物ですよ。そんなスーツでも釦を総取っ替えするだけで少し高
級に見えるから不思議。掟破りにも限界があるから精々そこまで。生地や縫製、釦など付属
のバランスが取れてこそグッドスーツといえる。
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