2016年6月16日木曜日

VOL・42 エイジング  2004・6

型崩れせず、着心地が良く、長期間の着用に耐える。スーツ作りの妙味は、ほとんどそこにある。

一時的なアイロンワークで、皺を伸ばしても、時間が経つと元に戻ってしまう。それは、パターンの

完成度と手間暇を惜しまないエイジングがなされていないことに起因する。スーツ作りの場合、中

間プレスがその良し悪しを決めるのだが、素材段階で寝かせ(エイジング)、縫ってプレスしてま

た寝かせ、生地をリラックスさせる必要がある。生地はロールに巻かれているだけでもテンションが

掛かるので、まずそこでリラックスさせる。スチームで加湿すると伸び、アイロンで加熱すると収縮

する。ほとんどの生地は、横糸方向には伸縮性をもっているから、自然な状態で寸法安定を図る。

同型同サイズの服でも着心地が違うのは生地の伸縮度の違いの為だ。高級と呼ばれるスーツ

には、最近の美脚パンツの様にパワーストレッチ素材を用いることは考えられないから、素材とパ

ターンと縫製とプレスで立体感を出していかなければならない。

立体裁断と言うけれど、型紙も生地も平面である。平面の生地を縫いで丸くしていく。その中でも最

も多くの工程が集中しているのが肩づくりである。前に湾曲している肩に合わせて、イセ込みなが

ら本縫い、中間プレスを繰り返す。長さの違う二つのパーツを短い方の前身の生地に合わせて、イ

セて縫い合わせると、前肩に添う様に湾曲する。そしてまた中間プレス。加熱と乾燥によって縮ん

だ生地を寝かせて元の状態に戻して、次の工程に進む。

この時間の掛かる繰り返しが、丸さを保ち、型崩れしないスーツを生み出す。

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