2016年6月19日日曜日

VOL・62 香港にて  2006・02

この街を訪れる度に襲ってくる独特の感情は、他の都市で感じるものとは明らかに異なる。 

さまざまな魅力、つまりビジネス、観光、グルメ、買い物と羅列すれば、世界中よくある話だが、

この地域の生い立ち、中国でありながら長い間英国の統治下であった事が大きく影響してい

るのだろう。もともと民族がもつパワーと近代的な高層ビル群、そのビルの裾野に広がるレトロ

な下町、新旧のグルメスポット。洗練された部分と、お世辞にもそうは言えない部分がせめぎ合

う喧騒と静寂。ロマンティックとセンチメンタルが繰り返す。

テイラーを生業としている筆者が、生地を捜しに行く最も近い外国である。

英国生地が再ブームになろうとしている今、香港はおいしいのだ。英本国で仕入れるよりも、

デッドストックの物など掘り出し物が今のところ見つかる。そんな目で現地の人々のスーツを

見ていると、確かに生地はいい物を使っている。旧いテイラーが軒を連ねているが、

そのフォルムや縫いは旧態依然としていて30年位前で時間が止まっている。

だが、紺やグレーの無地のスーツでも生地は賞賛に値する。

ヨーロッパの影響を強く受けていても亜熱帯に位置するから、現地の人のスーツやジャケットには

あまりバリエーションは無い。茶色系チェックのスポーツジャケットを着ている人など皆無に等しい。

前回訪れた時は、それで失敗してしまった。無地かストライプのダークスーツもしくはネイビーの

ジャケットにするべきだった。

選択肢が少ない分だけ基本がパワーを持っている。クラシックでありベーシックであるスーツの

強さを改めて感じてしまった。色々なバリエーションの服を作り出す事だけが、洋服屋の仕事では

無いのだと教えられた気がしたものである。

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