2016年6月20日月曜日

VOL・95 手練手管が残すモノ  2008・11

スーツには三つの要素がある。

まず生地。

素材、色、柄、これがルックスの半分を支配する。

二つ目が形、いわゆる型紙(パターン)。

これがスーツのフォルムを決めてしまう。

三つ目が縫いである。

完成度の高い型紙を具現化すると共に着やすさをも作り出す。

よく、「良いスーツとは?」と尋ねられるが、あまり専門的な答え方をするのも気が引けるので

「普通の良いスーツ」と答えることにしている。決して手を抜いて返答しているわけではない。

色柄の話をしても、生地のバリエーションは無尽蔵であるから、きりがない。

紺とグレー、無地と縞あるいは格子、そういった基本(しかし、これがすべて)の中で

微妙な差異を楽しむのである。

日本の首相のスーツの着こなしの中では、村山氏が評価が高かったという逸話を

聞いたことがある。何ということはないごく普通のスーツだった。

細かい点は別にして普通のスーツを普通に着こなす潔さが評価を生んだのだろう。

生半可に凝ってしまうと俗っぽい雰囲気になり、どこかしら逸脱した感じが現れる。

じろじろ見られる時は要注意。見られているのは、そのスーツを選んだ心根なのである。

ファッションという括りで考えれば、フォルムはより極端へと流れる。

ヤング諸氏のスーツはどう見ても小さすぎて、賢く見えていない状況を着手本人は

どう思っているのだろうか。そして、未だに緩すぎるスーツを着ているジジィも多い。

手練手管のセールストークを離れて言わせてもらえば十年前のスーツは残念ながら

着用は諦めた方が良い。加えてモードなスーツの旬は一年、いやワンシーズンである。

普通のスーツがイヤで迷宮に入り込んでいく人と、それに拍車をかける売り手たち。

一度、原点に戻ってみるといい。オンデューティのスーツは基本が全てである。

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